この記事は、私のクオンツ研究ノートでもあります。古典的な因子の再現は、よい練習になります。論文の式を計算可能なシグナルに変え、市場全体での株式の順位を理解し、予測力、期間をまたぐ安定性、コスト控除後のリターンを検証する。そのまま使える戦略が見つからなくても、この過程には学ぶ価値があります。自分の手で再現することで、これらの古典的な式が日本市場でどのような情報をもたらすのか、どこに限界があるのかを確かめたいと考えました。

まず結論:古典的なクオンツ戦略はもう通用しないのか?

今回の結果は、Alpha101をそのまま現在の日本株で有効な銘柄選択戦略として使うことを支持しません。100式を計算でき、50式の理論ポートフォリオはコスト控除後の平均リターンがプラスでしたが、同じ比較条件でTOPIXを上回ったものはありませんでした。プラスのRank ICが多重検定補正後も有意だった式もゼロです。

つまり、「古典的で、公開されていて、広く引用されてきた」というだけでは、その式を使う理由として不十分です。Alpha101をそのまま適用しようとする投資家に対し、今回の検証は十分な根拠を提供していません。式はシグナルを生成できますが、そのシグナルは今回の検証期間で、確認できるコスト控除後の銘柄選択上の優位性にはつながりませんでした。

ただし、これらの結果から、古典的なクオンツ戦略全体が時代遅れになったとは言えません。今回検証したのは、日本株の特定期間における公開式のポートフォリオで、保有期間は5営業日、コストは売買それぞれ25bpsです。この結果だけでは、市場の違い、優位性の減衰、取引コストの影響を切り分けられません。本稿で問うのは、古典的な式を知名度だけで使い続けるのではなく、新しい市場と時期で改めて検証したときに通用するかどうかです。

2026年1〜7月の過去データによる検証期間で、5営業日のリターンを主な観察対象としました。

問い数
101式のうち計算を完了できたもの100式
平均Rank ICがプラスだったもの24式
Rank ICがプラスで、個別検定では有意だったもの(未補正のp<0.05)2式
Rank ICがプラスで、101項目の多重検定補正後も有意だったもの0式
売買それぞれ25bpsを控除後、上位分位の理論ポートフォリオの平均リターンがプラスだったもの50式
同じコスト条件で、対応する期間のTOPIXをネットリターンが上回ったもの0式

計算できなかったのは#56です。信頼できる、各日時点の時価総額データが不足していました。

ICは因子とその後のリターンとの相関を測り、Rank ICは株式の順位を比較します。Rank ICがプラスなら、因子値の高い銘柄ほど高いリターンを得る傾向があるということです。少数の式が個別検定で有意でも、101式を同時に検定した後には有意でなくなるのであれば、有効な戦略を見つけたとは宣言できません。

期間をまたいで見ると、2025年下半期には、カバレッジ、プラスのRank IC、有意性を含む主判定基準を14式が満たしましたが、2026年1〜7月には通過した式がありませんでした。60式では平均Rank ICがプラスからマイナスに転じました。安定性を確かめることは、「ある期間では有効に見える」ことよりも難しいのです。

50式のプラスのリターンは、50式の超過リターンにはなりませんでした。市場が上がればポートフォリオも利益を得られますが、それだけで因子の銘柄選択能力が証明されるわけではありません。今回、売買それぞれ25bpsを控除した後の理論ポートフォリオの平均ネットリターンが、各式の有効な保有期間に対応するTOPIXの価格リターンを上回った式はありませんでした。

このコスト控除後の比較は、過去データによる理論ポートフォリオの結果であり、実口座の利益とは呼べません。平均値には、開始と終了の価格がそろった保有期間だけを含めています。そのため、全式が期間全体で指数を下回ったと断定することはできません。また、検証期間は、これまで一切使っていない純粋なアウトオブサンプルでもありません。

Alpha101とは

Alpha101は、論文『101 Formulaic Alphas』で公開された101個のクオンツ因子の式です。価格、出来高、リターン、VWAP、業種分類などの情報を組み合わせ、株式を順位づける数値を作ります。単純なものもあれば、相関、ローリング順位、業種中立化を重ねたものもあります。

原式の方向では、一般に因子値の高い銘柄ほど強気に評価することになります。ただし、因子は完全な戦略ではありません。式だけでは、ポジションの規模、取引コスト、リスク管理まで答えられません。「Alpha101」という名前も、101式がどの市場でも超過リターンを生むことを意味しません。

日本市場で試したかった理由

公開式の有効性をそのまま受け入れるのではなく、これらの価格と出来高の関係が日本株にも適用できるかを検証したいと考えました。日本市場という別の銘柄群で観察することで、どの関係に市場をまたぐ応用の可能性があり、どの関係が特定の市場環境に依存しているのかを探れます。

これらの式は主に相場データを使うため、日本株の因子研究で共通の出発点にしやすいものです。約2年分の日本株tickデータがあるので、利益が出そうな例をいくつか選ぶだけでなく、式全体を比較できます。目標は、市場上昇時にたまたま利益が出るポートフォリオではなく、継続して銘柄選択に役立つ関係を見つけることです。

実データによる市場全体の横断面の2例

以下は説明用に選んだ、シグナルの弱い例であり、研究候補全体を代表するものではありません。いずれも2026-04-01の実際のJ-Quants相場データを使い、式、横断面の順位、5グループのリターンを示します。この2例の成績を研究全体の結論に置き換えることはできません。Rは当日の基礎銘柄ユニバース内での横断面のパーセンタイル順位です。最終ポートフォリオには研究条件を満たした銘柄を使います。

#30:3日間の値動きの方向と直近出来高の割合

Alpha⁡30,t=[1−R(st)]∑i=04Vt−i∑i=019Vt−ist=sign⁡(Ct−Ct−1)+sign⁡(Ct−1−Ct−2)+sign⁡(Ct−2−Ct−3)\begin{aligned} \operatorname{Alpha}_{30,t} &= [1-R(s_t)]\frac{\sum_{i=0}^{4}V_{t-i}}{\sum_{i=0}^{19}V_{t-i}} \\ s_t &= \operatorname{sign}(C_t-C_{t-1}) \\ &\quad+\operatorname{sign}(C_{t-1}-C_{t-2}) \\ &\quad+\operatorname{sign}(C_{t-2}-C_{t-3}) \end{aligned}

C₁、C₂、C₃はそれぞれ1、2、3営業日前の終値です。signは上昇を+1、下落を−1、変わらずを0とします。ΣV₅とΣV₂₀は、当日までの5日間と20日間の累計出来高です。

1銘柄の計算例としてトヨタ(7203)を見ると、実際の終値は次のとおりです。

日付終値(円)
2026-03-273,408.00
2026-03-303,224.00
2026-03-313,162.00
2026-04-013,311.00

隣り合う終値の3回の変化について、方向の合計は-1です。この合計値の当日の基礎銘柄ユニバース内での順位は0.2968834688でした。5日間の出来高合計は127,508,000株、20日間は448,072,700株なので、次のようになります。

Alpha⁡30=(1−0.2968834688)127508000448072700=0.2000857956\operatorname{Alpha}_{30} = (1-0.2968834688)\frac{127508000}{448072700} =0.2000857956

このトヨタの1行は、式への代入方法を説明するためのものです。グループ分けとICは有効な全銘柄を使って求める必要があります。その結果は次のとおりです。

当日の#30の有効な横断面は1,829銘柄でした。因子値の低い順にQ1〜Q5に分け、各グループのその後のリターンを等ウェイトで計算しました。エントリー日は2026-04-02、エグジット日は2026-04-08です。

グループ銘柄数5日間の平均グロスリターン
Q1365+2.4531%
Q2366+2.0900%
Q3366+3.3470%
Q4366+3.1333%
Q5366+2.2735%

当日の横断面Rank ICは+0.002440でした。Q5の売買それぞれ25bps控除後の理論ネットリターンは+1.7678%です。これは単日の横断面に続く1回の保有期間の結果であり、検証期間全体や実口座の運用実績ではありません。

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Alpha #30の市場全体の順位、5グループのリターン、コスト控除後の比較

図:各点は1銘柄を表します。5グループの棒グラフは、有効な全銘柄を使った等ウェイトのリターンです。固定した単日の事例は長期的な成績を示すものではありません。

説明用の添付データ:#30の全銘柄の順位、グループ、リターン、式の各計算段階のデータ項目。

#72:2種類の価格・出来高関係の順位の比

論文の式は次のとおりです。

Nt=R ⁣(decay_linear⁡ ⁣(correlation⁡ ⁣(H+L2,adv⁡40,8.93345),10.1519))Dt=R ⁣(decay_linear⁡ ⁣(correlation⁡ ⁣(ts_rank⁡(VWAP,3.72469),ts_rank⁡(V,18.5188),6.86671),2.95011))Alpha⁡72,t=NtDt\begin{aligned} N_t &= R\!\left(\operatorname{decay\_linear}\!\left( \operatorname{correlation}\!\left(\frac{H+L}{2},\operatorname{adv}_{40},8.93345\right),10.1519\right)\right) \\ D_t &= R\!\left(\operatorname{decay\_linear}\!\left( \operatorname{correlation}\!\left( \operatorname{ts\_rank}(\mathrm{VWAP},3.72469), \operatorname{ts\_rank}(V,18.5188),6.86671\right),2.95011\right)\right) \\ \operatorname{Alpha}_{72,t} &= \frac{N_t}{D_t} \end{aligned}

論文のadv40は40日平均出来高を指しますが、本研究の実装では40日平均の円建て売買代金を使っています。したがって、以下はこの実装版の再現であり、論文の原式と完全に同等とは見なせません。ts_rankは、その銘柄のローリング窓内での順位です。decay_linearは、直近の観測値ほど大きい線形ウェイトを与えます。ここでは研究全体の統一ルールに従い、小数の窓長を切り捨て、順に8、10、3、18、6、2日としています。

トヨタの1行を見ると、分子側は「日中の高値と安値の中間値と40日平均売買代金の8日相関→10日の線形加重→全銘柄の横断面順位」、分母側は「VWAPの3日順位と出来高の18日順位の6日相関→2日の線形加重→横断面順位」という流れです。実際の計算値は次のとおりです。

計算段階分子側分母側
ローリング相関係数-0.6870717756-0.5672816854
線形加重後の値-0.2584221930-0.5687775857
当日の基礎銘柄ユニバース内の横断面順位0.36243311740.2097272983
Alpha⁡72=0.36243311740.2097272983=1.7281160841\operatorname{Alpha}_{72} =\frac{0.3624331174}{0.2097272983} =1.7281160841

これらの数値はいずれも保存済みの因子値と一致します。ローリング計算の全データ項目は説明用の添付データに残しています。銘柄の順位とグループ分けにも、横断面全体を使っています。

当日の#72の有効な横断面は1,813銘柄でした。因子値の低い順にQ1〜Q5に分け、各グループのその後のリターンを等ウェイトで計算しました。エントリー日は2026-04-02、エグジット日は2026-04-08です。

グループ銘柄数5日間の平均グロスリターン
Q1362+3.1422%
Q2363+2.3535%
Q3362+2.3422%
Q4363+2.4616%
Q5363+3.1579%

当日の横断面Rank ICは+0.012383でした。Q5の売買それぞれ25bps控除後の理論ネットリターンは+2.6500%です。これは単日の横断面に続く1回の保有期間の結果であり、検証期間全体や実口座の運用実績ではありません。

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Alpha #72の市場全体の順位、5グループのリターン、コスト控除後の比較

図:各点は1銘柄を表します。5グループの棒グラフは、有効な全銘柄を使った等ウェイトのリターンです。固定した単日の事例は長期的な成績を示すものではありません。

説明用の添付データ:#72の全銘柄の順位、グループ、リターン、式の各計算段階のデータ項目。

結論:古典的な式も再検証が必要

「今日、Alpha101をそのまま使って日本株の銘柄選択で優位性を得られるか」という問いに対し、今回の結果は「証拠が不足しており、この結果を根拠にそのまま使うべきではない」と答えています。2026年1〜7月の5日間リターンによる検証では、計算できた100式のうち50式の理論ポートフォリオがコスト控除後の平均リターンでプラスでしたが、TOPIXに対するネット超過リターンがプラスだった式はゼロでした。プラスで、101項目の多重検定補正後も有意なRank ICもゼロです。利益が出ることと銘柄選択が有効であることは、分けて判断する必要があります。

「古典的なクオンツ戦略全体が時代遅れになったか」という問いには、この研究だけでは答えられません。Alpha101は公開因子の一群であり、すべてのクオンツ手法を代表するものではありません。また、同じ日本市場、同じコスト条件で、かつて有効だったものが現在は無効になったという完全な証拠も、今回は構築していません。発見期間で成績が見られ、その後の検証期間では基準を通過しなかったことは、安定性の再検証が必要であることを示しますが、その原因が戦略の老朽化であるとは、それだけでは証明できません。

研究と利用についての判断は明確です。Alpha101は研究のベースラインとして引き続き使えますが、今回の検証は、そのまま運用に投入する根拠を与えていません。古典的な式の価値は、現在の期間をまたぐ予測の証拠とコスト控除後の超過リターンによって、改めて示す必要があります。本文の2つの単日事例は、式が市場全体の順位をどう生み出すかを説明するためのものです。ある1日のプラスのリターンやプラスのICで、この結論は変わりません。

私の研究ノートとして、今回の再現で得たものは、利益を生む因子が見つかったかどうかだけではありません。古典的な式は、具体的で照合可能な練習問題を提供してくれます。式の実装、横断面の比較、統計検定、コストの判断をつなぎ、「計算できる」「予測情報がある」「コスト控除後に超過リターンが得られる」を区別することも学べました。古典的な因子の再現は、今でもよい学習の出発点です。練習としての価値と、戦略をそのまま使えるかどうかは、それぞれ別に答える必要があります。

式の出典:101 Formulaic Alphas 原論文。