1. 売買ルールは自然に思い浮かぶ
恐怖・強欲指数を見ると、研究上の問いより先に売買ルールが浮かびます。皆が恐れているときに買い、自信が戻るまで待ち、楽観が行き過ぎたら売る。感情的には難しい行動を、規律ある手順にできそうなところに魅力があります。
前回の日本株センチメント研究では、J-FGIを将来のリターン方向を予測する指標よりも、市場のリスク状態を描写する指標として捉えるほうが、現在の証拠に合っていました。しかし、それだけで売買の発想に答えたことにはなりません。固定期間の将来リターンとの関係が弱くても、センチメントを出口に使う場合の結果は別に調べる必要があります。
ここで使う J-FGI(Japan Fear & Greed Index) は、私が日本株市場のために作った恐怖・貪欲指数です。トレンド、市場の強さ、売買代金の広がり、実現したストレスの四側面を等ウェイトでまとめます。公式の日本市場センチメント指数でもCNN Fear & Greed Indexの日本版でもなく、前回の研究で固定した定義とスコアを使います。
そこで主ルールを一つに固定しました。J-FGI≤20で買いのシグナル、J-FGI≥80で売りのシグナルとし、境界値も含めます。待った時間を考慮しても、そのリターンは特別に良いのでしょうか。
図1:凍結済みCore観測期間における20→80主ルールの四つの完結サイクル。売買マーカーは各シグナルの次の実際の取引日の終値を示す。J-FGIとTOPIXの軸は別々。
2. 歴史的な探索の仕組み
本文の 取引日 は、取引所が実際に開く日を指し、週末と休場日は数えません。保有取引日数は買いの日から売りの日までの取引日の間隔で、買った次の取引日を第1日と数えます。例えば289取引日の保有は、289暦日の保有とは異なります。
ルールは現金と一つの指数ロングポジションの間を移動します。未保有時には最初の恐怖条件で買いシグナルを出し、保有中には最初の強欲条件で売りシグナルを出します。保有中に恐怖が再び現れても買い増しはしません。売りシグナルの日に、新たな買いシグナルも出すことはありません。
観測と執行は分けます。t日に観測したシグナルに対して、次の実際の取引日の終値を割り当て、各保有期間の価格変化を計算します。
実験では先に売買ルールを固定し、各サイクルのリターン、保有期間、途中のドローダウンを記録します。
3. TOPIXと日経ETFの代理系列を使う理由
TOPIXは、日本株市場を幅広く見るための参照です。もう一つには、NEXT FUNDS 日経225 ETF(1321)の代理系列を使います。本文の「1321」はこのETF価格系列を指し、日経225の現物指数を指しません。
ローカルの1321終値系列は累積調整係数で補正していますが、分配金の再投資は含みません。信託報酬やトラッキングの差は市場価格に反映されたままです。TOPIXも配当を含まない価格指数です。どちらの結果も価格変化であり、配当込みの投資家の総収益ではありません。
二種類の市場エクスポージャーを比べると、結論が市場の表現方法に依存しているかを確認できます。ただし、独立したセンチメント局面が二倍になるわけではありません。シグナルの日付は同じであり、二列のリターンは二つの独立実験ではありません。
4. 最初の結果は期待を持たせる
主ルールでは各資産で四つのサイクルが完結しました。ETF代理系列は三回、TOPIXは二回、プラスで終わっています。平均だけを見ると、恐怖を買うという発想は悪くなさそうです。
| 20→80主ルールの結果 | TOPIX | 1321 ETF代理系列 |
|---|---|---|
| 完結サイクル数 | 4 | 4 |
| 勝率 | 50% | 75% |
| サイクル平均リターン | +4.01% | +7.39% |
| サイクルリターン中央値 | −0.30% | +4.74% |
| 保有取引日数中央値 | 212.5 | 212.5 |
これは各サイクルの算術的な集計で、年率リターンでもポートフォリオ全体の複利成績でもありません。TOPIXの平均がプラスで中央値がマイナスという差も、個別の結果を読む必要を示しています。
保有期間にも目を向けるべきです。数週間で得た利益と、一年以上かけて得た利益は、投資上の意味が異なります。時間のエクスポージャーを考えずに「利益が出た」と述べても、結果の説明は十分ではありません。
5. 平均よりも、四つの経路が重要
最初のTOPIXサイクルは2014年10月17日に入り、12月3日に終わりました。31取引日で+21.45%です。恐怖を買うという話で記憶に残るのは、このような反発でしょう。
次は異なる経験でした。2015年8月25日から2016年11月1日まで289取引日保有し、最終リターンは−2.75%。終値の経路から計算した最大ドローダウンは−25.51%でした。最大ドローダウンは保有中の過去最高値からの下落であり、買値からの損失とは必ずしも一致しません。
2018年2月7日の買いから2019年10月30日の売りまでは420取引日。TOPIXは最終的に4.80%下落しました。強欲が戻るまで待つルールは長い忍耐を要求し、その忍耐が報われるとは限りません。
最後は2020年2月26日の買いで、136取引日後に+2.16%で終わりました。しかし途中の最大ドローダウンと、買値からの最大逆行幅は、ともに終値ベースで−23.03%。小さな最終利益の前に、大きな下落を耐える必要がありました。
「最終的に利益が出た」と「有用なタイミングルールである」は別の判断です。これらは日次終値の統計であり、日中の最悪の状態を示してもいません。
図2:買いの年順に並べた主ルールの価格リターン。TOPIXは+21.45%、−2.75%、−4.80%、+2.16%、1321は+21.74%、−1.65%、+5.71%、+3.76%。
図3:最終リターンと、そこに至る経路。2020年のTOPIXは+2.16%で終わった一方、最大ドローダウンは−23.03%。ETF代理系列はそれぞれ+3.76%と−26.12%。
6. より難しい問い:何と比べるのか
日本株を289取引日保有するとしましょう。センチメントのシグナルがなくても、その長さの保有には歴史的なリターン分布があります。恐怖での買いを現金保有と比べるだけでは、結果のどこまでが買いのルールに由来し、どこまでが長く株を持ったことに由来するのか分かりません。
そこで各実際のサイクルについて、同じ資産を、完全に同じ期間保有する別の歴史的開始日を列挙します。途中の価格が欠けず、すべて正である経路を要求し、実際の開始日自体は除きます。その分布の中で実際のリターンの位置を調べます。
50に近い百分位は、およそ分布の中央です。100に近ければ、ほぼすべての比較期間を上回っています。これは歴史的な順位で、将来成功する確率ではありません。全履歴の比較には買いの後の情報も含むため、当時利用できた情報ではなく、明確に事後的な基準です。
7. 同じ保有期間で比べると、見え方が変わる
2014年の反発は、両資産で際立っています。その後の三つには、一貫した優位性が見られません。
| 買いの年 | 保有取引日数 | TOPIX百分位 | 1321百分位 |
|---|---|---|---|
| 2014 | 31 | 99.89 | 99.87 |
| 2015 | 289 | 28.63 | 23.03 |
| 2018 | 420 | 20.70 | 24.94 |
| 2020 | 136 | 44.40 | 47.80 |
表は全履歴における同期間保有リターンの百分位です。四つのうち三つで、両資産がそれぞれの分布の中央を下回ります。プラスで終わった2020年も、同じ時間のエクスポージャーを持つ他の期間と比べると、特別な結果ではありませんでした。
図4:主ルールの全履歴・同期間保有百分位。分布の上端に近いのは2014年だけで、残る三つは両資産とも中央を下回る。
価格履歴の長さが違うため、比較対象の集合は資産間で同一ではありません。また歴史的な開始期間は重なります。数千の候補が、数千の独立観測を意味するわけではありません。比較集合の定義が変われば順位も動くので、これは特定の反実仮想への答えであって、普遍的な評点ではありません。
印象的な一度の反発が、ルール全体を実際以上に強く見せることがあります。同期間の比較は、その成功を全体の中に戻してくれます。
8. ランダムな開始日も同じ注意を促す
さらに、実際の各サイクルに対して同じ保有期間の歴史的開始日をランダムに一つずつ選び、リターンを平均します。これを1,000回繰り返すと、四つの期間に対応する平均リターンの記述的な参照分布が得られます。
TOPIXの実際の平均は+4.01%、ランダム開始の参照平均は+7.95%でした。実際の平均は抽出分布の第35.3百分位です。1321では、それぞれ+7.39%、+11.51%、第32.1百分位でした。
図5:同じ四つの保有期間を使う1,000回のランダム開始とTOPIX主ルール平均の比較。参照平均は+7.95%、実際の+4.01%は第35.3百分位。記述的な対照であり、有意性検定やポートフォリオシミュレーションではない。
同じ保有期間を持つランダムな歴史的開始日に対して、恐怖→強欲の平均は特に強い位置にありませんでした。この比較で分かるのはリターンの順位であり、代替売買戦略の成績ではありません。
9. 閾値を変えれば、ルールは良くなるか
20→80に加え、20→70、30→80、30→70の三つを、事前に頑健性確認用として定めました。早い売りや緩い買い条件は、対象の局面と保有時間を変えます。
| 回復条件なしのルール | 各資産のサイクル数 | TOPIXリターン中央値 | 1321リターン中央値 |
|---|---|---|---|
| 20→80、主ルール | 4 | −0.30% | +4.74% |
| 20→70 | 6 | +2.83% | +7.48% |
| 30→80 | 6 | +1.79% | +5.94% |
| 30→70 | 9 | +4.10% | +4.30% |
良く見える集計もあります。例えば1321の30→80は勝率83.33%です。ただし、どのルールも各資産で四つから九つの完結サイクルしかありません。隣接する定義は結果の感度を調べるためのもので、勝者を選ぶだけの証拠にはなりません。
図6:買い閾値20・30、売り閾値70・80の頑健性比較。各セルにサイクル数と価格リターン中央値を表示する。過去の順位にかかわらず20→80が主ルール。
過去の成績が最も良い変形を新しい主ルールに昇格させた時点で、頑健性の確認はパラメーター選択に変わります。それは最初の問いとは別の研究です。
10. 恐怖が和らぎ始めるまで待つなら
副次的な仮説では、恐怖の条件に加えて、凍結済みJ-FGIの五日変化が正であることを要求します。最初の低い数値で買うのではなく、センチメントが回復し始めるまで待つ発想です。
20→80では平均がTOPIXで+5.46%、1321で+8.97%になりました。しかし、どちらも完結サイクルは三つだけです。事前に定めたすべての閾値でも、副次的な集合は三つから六つにとどまります。
この条件は買う時点だけでなく、対象となる局面の集合も変えます。同じ取引に小さな修正を加えた比較でも、独立したランダム標本の比較でもありません。高い平均は、残った局面、入った時点、少数の良い結果を反映している可能性があります。引き続き調べる価値はありますが、改善したと判断するには程遠い段階です。
11. 恐怖が現れても、すぐ反発するとは限らない
買いの考え方を強欲での売りから切り離す方法もあります。連続する各恐怖局面の最初の適格な観測から、固定した期間のリターンを測ります。これは状態遷移サイクルとは異なるイベント集合です。回復条件なしの極度の恐怖では、各資産・各表示期間に36観測があります。
| 買いの後の取引日数 | TOPIX平均リターン | 1321平均リターン |
|---|---|---|
| 1 | +0.08% | +0.10% |
| 5 | −0.08% | +0.10% |
| 10 | +0.40% | +0.66% |
| 20 | +1.20% | +1.41% |
| 60 | +3.02% | +4.42% |
ここから、恐怖が現れれば安定してすぐ反発するとは言えません。期間が長くなると平均はプラスになりますが、通常の株式市場の上昇傾向も寄与し得ます。これらの平均だけで利益をセンチメントによるタイミングに帰属させることはできません。
イベントと将来の期間は重なり得ます。同じ恐怖での買いが異なる強欲の仕様で繰り返し表示されても、それらを足して標本を増やしてはいけません。分解は仕組みを理解する助けになっても、証拠を独立にはしません。
12. まだ売買戦略とは言えない理由
Coreの観測期間は2014年7月31日から2020年9月30日まで、両端を含みます。長い価格履歴は同期間比較に使いますが、十八年分の観測可能なセンチメントサイクル研究になるわけではありません。
過去の入力は現在入手した版です。当時いつ公表され、利用できたかは未確認で、当時の投資家が見られた情報全体はまだ再構築できません。次の取引日に執行する取り決めでも、欠けた時刻情報は補えません。時点データとバックテストの研究で重要なのは、今日計算できる過去の値が、その当時も組み立てられたとは限らないという違いです。
取引カレンダーと過去の銘柄集合にも未解決の問題があり、比較期間は重なります。手数料、売買スプレッド、運用容量、日中の執行をモデル化せず、実運用や前向き検証もありません。翌取引日の終値を使うだけでは、発注期限前にシグナルを利用できたことや、その価格で約定できたことは確認できません。両価格系列に配当再投資は含まれず、1321はETF代理系列です。各資産四つの主サイクルでは、恐怖での買いの信頼できる効果を確立できません。
このバックテスト研究は固定ルールに沿った過去の価格経路を示します。次には情報の過去の利用可能性を確認し、執行費用を加え、新しい観測でルールを検証する必要があります。ArcaVisoの研究姿勢とKabuForgeの研究枠組みも、この検証過程を重視しています。
13. 恐怖は状態を描写しても、優位性を生むとは限らない
前回はJ-FGIが何を測るかを問い、今回は分かりやすいラベルが投資ルールに変わるとき、その解釈がなぜ重要になるかを問い直しました。
ストレスの高い市場状態には経済的な意味があっても、その後の保有期間に対して特に良い買値を提供するとは限りません。この標本では一度の際立つ反発と、長い待ち時間、大きな逆行、その後の三つの全履歴比較で中央を下回るサイクルが共存しています。
恐怖→強欲のタイミングに優位性があるかは、リターン、保有期間、途中の損失を一緒に見て判断したいところです。今回の同期間比較では2014年の反発を除き、残る三つの主サイクルは、それぞれの歴史的比較の中央を上回りませんでした。
恐怖と強欲は、市場状態の有用な名前かもしれません。しかし、それだけで売買シグナルになるわけではありません。
構築と参考資料
- 独自の研究:J-FGIと恐怖→強欲の実験は私が構築・計算しました。定義、閾値、標本は固定した研究のものを維持しています。個人売買システムのBroad Risk-Onは前回の記事の市場状態比較に使い、本文の外部シグナル源ではありません。
- 市場データ:価格とカレンダーはローカル保存のJ-Quants過去資料です。JPX J-Quantsと公式APIクライアントとドキュメントを参考資料として挙げます。使用した版の過去の利用可能時刻は未確認です。
- 資産の確認:NEXT FUNDSの1321公式資料は日経225連動型ETFであることを説明しています。本文のリターンはローカル価格系列から計算し、基金の公式運用成績を使ったものではありません。
- 概念上の参考:CNN Fear & Greed Indexは複合センチメント指数の表現の参考です。日本市場の四側面を用いたJ-FGIと本文の売買探索は、私自身の研究です。