市場が急落すると、私たちは通常、業績悪化、政策変更、資金調達環境の引き締まりといったニュースに原因を求めます。しかし価格は、取引が流動性をどう消費するか、価格がどう回復するか、売却代金がどこへ向かうかという別の力にも左右されます。ファンダメンタルズが変わらなくても、こうした仕組みが持続的な価格損失を残す可能性があります。

ワーキングペーパー『When Can Markets Crash Without News?』は、これを到達可能性の問題として定式化します。価格応答、復元ダイナミクス、約定ルールが与えられたとき、十分に多くの資産が終点で同時に十分深い損失を示す取引経路は存在するか。

論文の議論は三段階で進みます。まず、どのような取引でも越えられない構造的な障壁を探し、次に下落状態へ到達するために必要な取引金額と在庫を計算します。最後に、取引速度と日次値幅制限を加え、すべての制約を満たす2日間の経路を構成します。以下では、この流れに沿って数学的内容を紹介します。

1. 価格ダイナミクスと取引台帳を一緒に扱う

市場に NN 個の資産があり、初期価格はいずれも固定されたファンダメンタルズの基準値 F>0F>0 とします。資産 ii の価格を Si(t)S_i(t)、保有株数の変化を dθi\mathrm d\theta_i、符号付きのドル建て取引フローを dXi\mathrm dX_i とすると、モデルの基本方程式は次の2本です。

dSi=−ρ(Si−F) dt+g(Si) dθi,dXi=Si dθi.\mathrm dS_i=-\rho(S_i-F)\,\mathrm dt+g(S_i)\,\mathrm d\theta_i, \qquad \mathrm dX_i=S_i\,\mathrm d\theta_i.

第1項は復元力を表します。価格が FF から離れると、速度 ρ>0\rho>0 で基準値へ戻ります。第2項は取引インパクトで、1株の取引による価格変化を正の応答関数 g(S)g(S) が決めます。2本目の方程式では、取引過程の限界価格で決済するため、価格変化とドル建てフローを切り離して計算することはできません。

モデルが扱うのは、リスク資産内で資金を再配分するプールです。ある資産の売却で得た1ドルは、直ちに別の資産の購入に使われます。どの2資産間でも、両方向の対となる資金移転を認めます。この完全双方向取引ネットワークの接続行列を BB とすると、

dX=B dz,dz≥0,1⊤B=0.\begin{aligned} \mathrm d\mathbf{X}&=B\,\mathrm d\mathbf{z},\\ \mathrm d\mathbf{z}&\ge0,\qquad \mathbf{1}^\top B=0. \end{aligned}

各有向辺は、売却する資産から購入する資産へのドル資金の移転に対応します。そのため、どの時点でも全資産のドル建てフローの合計はゼロです。さらに論文では、各資産について終点で次の条件を課します。

Xi(T)=∫0TSi dθi=0.X_i(T)=\int_0^T S_i\,\mathrm d\theta_i=0.

つまり研究対象は、各資産の純取引金額がすべて相殺された後にも、価格変位がどれだけ残り得るかという問題に絞られます。

ドル建て収支の閉鎖と株数の閉鎖では、経済的な意味が異なります。非負の在庫ポテンシャルを次のように定義します。

E(S)=∫FSu−Fg(u) du.E(S)=\int_F^S\frac{u-F}{g(u)}\,\mathrm du.

価格方程式と取引決済から、次の恒等式が得られます。

Xi(T)=F[θi(T)−θi(0)]+E(Si(T))+ρ∫0T(Si−F)2g(Si) dt.\begin{aligned} X_i(T)={}&F[\theta_i(T)-\theta_i(0)]\\ &+E(S_i(T)) +\rho\int_0^T\frac{(S_i-F)^2}{g(S_i)}\,\mathrm dt. \end{aligned}

後ろの2項はいずれも非負です。したがって、ドル建て台帳が閉じる場合、終点の変位と復元による散逸は、初期保有株数の取り崩しによって賄われます。さらに株数も完全に元へ戻すなら、この恒等式によって非自明な散逸経路は排除されます。論文は初期在庫を認める一方、在庫のない空売りを禁じ、ドル建て収支が閉じた後の残余価格リスクを研究します。

2. 座標変換で非線形な取引効果を加法にする

元の方程式では、ドル建て取引が価格に与える効果は状態に依存します。株数をドル金額に置き換え、対数価格 qi=log⁡(Si/F)q_i=\log(S_i/F) を取ると、取引部分は次のようになります。

dqi∣trade=g(Si)Si2 dXi.\mathrm dq_i\big|_{\mathrm{trade}} =\frac{g(S_i)}{S_i^2}\,\mathrm dX_i.

同じ1ドルのインパクトでも、現在の価格によって異なるわけです。そこで論文は、別の価格座標を選びます。

yi=Φ(Si),Φ(S)=∫FSug(u) du.y_i=\Phi(S_i),\qquad \Phi(S)=\int_F^S\frac{u}{g(u)}\,\mathrm du.

この選択には明確な正規化の根拠があります。座標 ψ(S)\psi(S) が取引時に dψ=dX\mathrm d\psi=\mathrm dX を満たすには、ψ′(S)g(S)=S\psi'(S)g(S)=S が必要です。さらに ψ(F)=0\psi(F)=0 と定めれば、Φ\Phi が一意に得られます。

復元応答を次のように定義します。

R(y)=S(S−F)g(S),S=Φ−1(y).\mathcal R(y)=\frac{S(S-F)}{g(S)},\qquad S=\Phi^{-1}(y).

すると市場全体の方程式は、

dy=B dz−ρR(y) dt.\mathrm d\mathbf{y} =B\,\mathrm d\mathbf{z} -\rho\mathcal R(\mathbf{y})\,\mathrm dt.

取引金額は加法的に系へ入り、ある資産の座標が減少した分だけ、別の資産の座標が増加します。非線形性は復元項と逆写像に集約されます。座標を足し合わせると、取引不変量が得られます。

H=∑iΦ(Si),dH=−ρ∑iSi(Si−F)g(Si) dt.H=\sum_i\Phi(S_i),\qquad \mathrm dH=-\rho\sum_i\frac{S_i(S_i-F)}{g(S_i)}\,\mathrm dt.

取引そのものは HH を保存し、復元過程が HH を変化させます。 広範な下落が起こり得るかどうかは、復元過程が状態をある境界の向こうへ運べるかにかかっています。座標変換は元の価格経路と到達可能集合を保ちながら、その境界を見える形にします。

3. 弾性1と2は、なぜ異なる障壁に対応するのか

まず、論文が「システミックな下落」をどう測るかを定義します。各資産の終点での対数損失は、

Li(T)=log⁡FSi(T),L‾(T)=1N∑iLi(T).L_i(T)=\log\frac{F}{S_i(T)},\qquad \overline L(T)=\frac1N\sum_i L_i(T).

カバレッジ α\alpha に対し、k=⌈αN⌉k=\lceil\alpha N\rceil と置きます。QαQ_\alpha を kk 番目に大きい損失として、次のように定義します。

Cα(T)=min⁡{L‾(T),Qα(T)}.\mathcal C_\alpha(T)=\min\{\overline L(T),Q_\alpha(T)\}.

閾値 δ>0\delta>0 に達するには、平均対数損失が少なくとも δ\delta であると同時に、少なくとも kk 個の資産でそれぞれ損失が δ\delta に達する必要があります。カバレッジと平均的な深さの両方が効くため、少数の資産の上昇は平均損失を相殺します。

価格応答の弾性を次のように定義します。

e(S)=Sg′(S)g(S).e(S)=\frac{Sg'(S)}{g(S)}.

この弾性は2つの重要な曲率を決めます。G(q)=Φ(Feq)G(q)=\Phi(Fe^q) と置くと、

Φ′′(S)=1−e(S)g(S),G′′(q)=S2g(S)[2−e(S)].\Phi''(S)=\frac{1-e(S)}{g(S)},\qquad G''(q)=\frac{S^2}{g(S)}[2-e(S)].

到達し得るすべての価格で e(S)≥1e(S)\ge1 なら、Φ\Phi は凹関数です。凹関数の接線不等式から、

(S−F)Φ′(S)≤Φ(S),H˙≥−ρH.(S-F)\Phi'(S)\le\Phi(S),\qquad \dot H\ge-\rho H.

H(0)=0H(0)=0 から出発すれば、H(t)≥0H(t)\ge0 となります。すべての資産が FF を下回ると、Φ\Phi は狭義単調増加で Φ(F)=0\Phi(F)=0 なので、各項が負になり、H<0H<0 となって矛盾します。したがって、弾性が1以上なら、すべての資産が同時に基準値を下回ることはありません。

さらに、大域的に e(S)≥2e(S)\ge2 なら、GG も凹関数です。Jensenの不等式より、

0≤HN=1N∑iG(qi)≤G(1N∑iqi).0\le\frac{H}{N} =\frac1N\sum_iG(q_i) \le G\left(\frac1N\sum_iq_i\right).

GG は狭義単調増加で G(0)=0G(0)=0 なので、平均対数価格は非負、平均対数損失は非正となります。そのため、どのカバレッジでも Cα≤0\mathcal C_\alpha\le0 です。

これが2つの閾値の違いです。弾性1は「全資産が下落できるか」を制約し、弾性2はさらに「平均対数損失が正になれるか」を制約します。いずれも許容経路全体で条件が成立する必要があります。初期価格の近傍だけで弾性を推定した場合、支えられる結論もその価格領域に限られます。

4. A/B/C:応答の形だけを変えると、到達可能集合はどう変わるか

論文は他の条件を固定し、同じ応答関数族の中で比較します。

gp(S)=η(S/F)p,p∈{2,1,0}.g_p(S)=\eta(S/F)^p,\qquad p\in\{2,1,0\}.

3つとも初期価格 FF では同じインパクト gp(F)=ηg_p(F)=\eta を持ち、弾性は常に pp です。1ドル当たりの対数インパクトを正規化した曲線は (S/F)p−2(S/F)^{p-2} となります。

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3種類の応答関数について、相対価格に対する取引1ドル当たりの正規化対数価格インパクトを示す解析曲線。

図1|同じ応答関数族の3つの形状。出典:V12 Final原稿およびmake_figures.pyを基にArcaVisoが再描画。縦軸は取引1ドル当たりの正規化対数インパクト。理論的な解析曲線。バージョン基準日:2026-10-17。

これらは、それぞれ異なる取引不変量と到達可能性に対応します。

市場応答の指数取引中に保存される量主な結果
Ap=2対数価格の和正のシステミック損失を排除
Bp=1価格の和小さな部分カバレッジの損失に到達可能。固定された初期在庫が深刻さを制限
Cp=0価格の二乗和インパルスを認め、カバレッジが全体未満なら、共通の有限資源上限の下で任意に深刻な対数損失を構成可能

市場Bの制約は、在庫ポテンシャルから直接分かります。終点価格を Fe−LFe^{-L} とすると、

E1(Fe−L)=F2η(L+e−L−1).E_1(Fe^{-L})=\frac{F^2}{\eta}(L+e^{-L}-1).

LL が大きくなると、これは無限大へ向かいます。一方、ドル建て収支の閉鎖と有限の初期在庫から E1≤FH0E_1\le FH_0 が必要です。したがって、固定された在庫では任意に大きな損失は実現できません。

市場Cでは E0(S)=(S−F)2/(2η)E_0(S)=(S-F)^2/(2\eta) となり、価格がゼロに近づいても有界です。論文はさらに経路を構成し、固定された NN と k<Nk<N に対し、十分長いものの有限な TT と、損失閾値に依存しない有限の売買回転・在庫上限を選べば、各有限の δ\delta に到達する経路が存在することを示します。

ここで「任意に深刻」とは、価格がゼロに近づくと発散する対数損失を指します。数学的な鍵は、少なくとも1つの受け皿資産を残し、価格応答の軌跡に沿って完了する瞬時のインパルスを認めることです。インパルスは過程中の限界価格を積分して決済し、途中の価格もすべて正でなければなりません。

カバレッジを全体、すなわち k=Nk=N に変えると、同じ一定インパクト市場にも厳密な時間境界が現れます。

δcrit(N,T)=log⁡N1+(N−1)e−ρT.\delta_{\mathrm{crit}}(N,T) =\log\frac{\sqrt N}{1+(\sqrt N-1)e^{-\rho T}}.

この境界より厳密に小さい正の閾値には、有限資源の経路で到達できます。境界以上には到達できず、境界そのものは達成されない上限です。証明では、一定インパクト下の取引が価格ベクトルの二乗ノルムを保存する一方、復元ダイナミクスがそのノルムの縮小幅を制限することを使います。「大多数の資産」から「すべての資産」へ変えると、問題の幾何構造が変わります。

5. 経路の存在から、必要な取引量の計算へ

Cα(T)≥δ\mathcal C_\alpha(T)\ge\delta なら、少なくとも kk 個の資産が s=Fe−δs=Fe^{-\delta} 以下まで下落する必要があります。価格がファンダメンタルズを下回ると復元力は上向きに働くため、取引はその力に抗い、少なくとも対応する座標距離を進まなければなりません。ここから、必要資源について2つの下限が得られます。

M≥k∫sFug(u) du,∑iHi−≥k∫sF1g(u) du.M\ge k\int_s^F\frac{u}{g(u)}\,\mathrm du,\qquad \sum_iH_i^-\ge k\int_s^F\frac{1}{g(u)}\,\mathrm du.

MM は対となるドル資金移転を1回として数え、Hi−H_i^- は資産 ii の累計売却株数です。ドル金額の距離は Φ\Phi で、株数の距離は Ψ(S)=∫FS1/g(u) du\Psi(S)=\int_F^S1/g(u)\,\mathrm du で測ります。

条件を満たす下落資産の初期在庫が最大 HiH_i なら、終点でドル建て収支が閉じるために、さらに次が必要です。

∫sFF−ug(u) du≤FHi.\int_s^F\frac{F-u}{g(u)}\,\mathrm du\le FH_i.

これらの不等式によって、資源不足の案を除外できます。実際に経路を見つけるには、復元による散逸、資産ごとの台帳閉鎖、他資産の受入能力も同時に満たす必要があります。

6. 有限取引速度は、なぜ損失を二次のオーダーに抑えるのか

インパルスを認める場合、有限量の取引を物理時間ゼロで完了できます。取引速度に上限を設けると、制御を時間に沿って連続的に実行する必要があります。論文は各資産について、売買を相殺する前の総約定株数の速度を制約します。

rigross(t)=1Si(t)∑e∣Bie∣z˙e(t)≤vˉ.r_i^{\mathrm{gross}}(t) =\frac1{S_i(t)}\sum_e|B_{ie}|\dot z_e(t) \le\bar v.

これにより、同時に反対方向へ行う売買の数量も制約に算入されます。一定インパクト g=ηg=\eta では、価格変位はまず次の一次の上界に従います。

∣Si(t)−F∣≤ηvˉρ(1−e−ρt).|S_i(t)-F|\le\frac{\eta\bar v}{\rho}(1-e^{-\rho t}).

しかし、システミック損失にはさらに強い制約がかかります。xi=Si−Fx_i=S_i-F、m=∑ixim=\sum_i x_i と置くと、ドル建て売買の対応条件から、

∑iθ˙i=−1F∑ixiθ˙i,m˙=−ρm−ηF∑ixiθ˙i.\sum_i\dot\theta_i=-\frac1F\sum_ix_i\dot\theta_i, \qquad \dot m=-\rho m-\frac\eta F\sum_ix_i\dot\theta_i.

各 xix_i は O(vˉ)O(\bar v)、株数取引速度も O(vˉ)O(\bar v) なので、平均価格の変位を生む項は O(vˉ2)O(\bar v^2) です。ここに、市場平均で一次の効果が相殺される理由があります。

dT=1−e−ρTd_T=1-e^{-\rho T}、a=ηvˉ/(Fρ)a=\eta\bar v/(F\rho) と置くと、adT<1ad_T<1 のとき、論文は次の明示的上界を得ます。

Cα(T)≤a2[dT−ρTe−ρT+dT22(1−adT)2].\mathcal C_\alpha(T)\le a^2\left[d_T-\rho T e^{-\rho T} +\frac{d_T^2}{2(1-ad_T)^2}\right].

市場パラメータと時間を固定すると、最大の正の損失は、小さな取引速度上限に対して二次のオーダーで縮小します。論文はこのオーダーを達成する連続的な構成も示しており、十分小さな損失閾値への到達に必要な最小速度は vˉ∗(δ)=Θ(δ)\bar v_*(\delta)=\Theta(\sqrt\delta) を満たします。

構成方法は示唆的です。全成分が非ゼロで、成分和がゼロのベクトル u\mathbf{u} を取り、Δ=T/3\Delta=T/3、r=e−ρΔr=e^{-\rho\Delta} として、ドル建て取引速度を同じ長さの3段階に分けます。

X˙i=εuif(t),f(t)={1,0≤t<Δ,−(1+r),Δ≤t<2Δ,r,2Δ≤t≤T.\dot X_i=\varepsilon u_i f(t),\qquad f(t)=\begin{cases} 1,&0\le t<\Delta,\\ -(1+r),&\Delta\le t<2\Delta,\\ r,&2\Delta\le t\le T. \end{cases}

3段階の信号の通常の積分はゼロとなり、終点でドル建て収支が閉じます。復元の重みを掛けた積分もゼロとなるため、終点価格の一次の変位も相殺されます。gg が FF の近傍で3階連続微分可能で、局所弾性が e(F)<1e(F)<1 なら、二次の項が各資産に正の損失を残します。ε\varepsilon を小さくすれば、任意に与えられた正の速度上限、正の幅を持つ価格帯、正の初期在庫を同時に満たせます。

したがって、有限速度でも小規模な全資産下落は可能です。速度制約が厳しいほど、実現可能な損失の規模は小さくなります。二次の法則は、この2つの結論を結び付けます。

7. 日次値幅制限と受け皿資産は、連続下落をどう制約するか

単日の固定下限 F(1−β−)F(1-\beta_-) は、直ちに損失の上限 −log⁡(1−β−)-\log(1-\beta_-) を与えます。毎日、前日終値を基準に設定し直す場合、下限は DD 日間にわたって乗算されます。

Si(TD)≥F∏d=1D(1−β−,d).S_i(T_D)\ge F\prod_{d=1}^D(1-\beta_{-,d}).

累積的な下落余地は取引日数とともに広がりますが、売却資金の受入条件は各時点で満たす必要があります。対象資産集合を JJ、残りを JcJ^c とすると、各時点の対応条件は、

−∑i∈JX˙i=∑j∈JcX˙j.-\sum_{i\in J}\dot X_i =\sum_{j\in J^c}\dot X_j.

対象集合が純売却となるとき、右辺の受入能力は残る資産の価格と株数取引速度の両方に制約されます。

∑j∈JcX˙j≤vˉ∑j∈JcSj.\sum_{j\in J^c}\dot X_j \le\bar v\sum_{j\in J^c}S_j.

対象が多く、受け皿資産が少ないほど、資金を吸収する負荷は大きくなります。さらに受け皿資産の上昇は、市場全体の平均対数価格を押し上げ、対象集合の損失を相殺します。したがって経路は、受け皿側が取引金額を吸収できることと、終点の平均損失が十分深いことを同時に実現しなければなりません。

8. 10資産・2日間の区間演算による認証構成を読み解く

論文は具体的な構成によって、以上の制約を一つにまとめます。パラメータは N=10N=10、F=η=1F=\eta=1、ρ=0.4\rho=0.4、各取引日の長さはモデル時間で20単位です。9つの対象資産には日次±3%、1つの受け皿資産には±25%の比例価格帯を設け、毎日前日終値を基準に設定し直します。

9つの対象資産は同じ連続区分線形価格経路 x(t)x(t) を取り、次の節点を順に通ります。

モデル時間02.317.72022.337.740
各対象資産の価格1hh0.970.9950.9950.9409

最初の平坦区間の高さ h≈1.020202255079063h\approx1.020202255079063 は、終点のドル建て収支を厳密に閉じる方程式から選びます。

101600000000h2−97138000000h−6646157699=0.101600000000h^2-97138000000h-6646157699=0.

x(t)x(t) が与えられると、各対象資産のドル建てフロー速度は価格方程式から決まります。

u(t)=x(t)[x˙(t)+0.4(x(t)−1)].u(t)=x(t)[\dot x(t)+0.4(x(t)-1)].

受け皿資産は、各時点で逆向きの9倍のドルフローを吸収する必要があります。その価格 y(t)y(t) は、次のスカラー非線形方程式に従います。

y˙=−0.4(y−1)−9u(t)y,y(0)=1.\dot y=-0.4(y-1)-\frac{9u(t)}{y},\qquad y(0)=1.

対称性により、10資産の系は2本の価格軌跡に縮約されます。対象経路の厳密なドル建て収支閉鎖と、各時点でのフローの対応により、受け皿資産も終点でドル建て台帳が閉じます。

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10資産・2日間の構成の数値再現。9つの対象資産の終値は順に0.97、0.9409となり、1つの受け皿資産は上昇。上下の図は独立した縦軸を使用。

図2|区間演算で認証した経路の浮動小数点数による数値再現。出典:V12 Finalのimproved_multiday_witness.pyを基にArcaVisoが再描画。価格は初期値で正規化し、横軸はモデル上の取引時間。上下図の縦軸範囲は異なり、破線は各日の価格帯を示す。バージョン基準日:2026-10-17。

9つの対象資産は2日とも下限で引け、累積価格損失は 1−0.972=5.91%1-0.97^2=5.91\% です。高精度の数値再現では y(40)≈1.405160822y(40)\approx1.405160822 となるため、

Q0.9=−log⁡(0.9409)≈0.06092,Q_{0.9}=-\log(0.9409)\approx0.06092,
L‾=−110log⁡[(0.9409)9y(40)]≈0.0208114.\overline L=-\frac1{10}\log[(0.9409)^9y(40)] \approx0.0208114.

小さい方は平均損失なので、システミック損失は約0.02081です。これは、終点価格の横断面幾何平均が約2.06%下落したことにも対応します。受け皿資産の約40.5%の上昇も、この計算に含まれています。

厳密な認証には固定小数点区間演算を使います。乗算・除算をいずれも外向きに丸め、対象経路の6区間にわたり合計80,000時間ステップで包絡を計算し、ステップ間の価格範囲、取引速度、資源積分を確認します。証明書が与えるのは、

C0.9(40)>0.020,vˉused<0.285,M<3,Hi−<2.\mathcal C_{0.9}(40)>0.020,\qquad \bar v_{\mathrm{used}}<0.285,\qquad M<3,\qquad H_i^-<2.

つまり、各資産に初期在庫が2株あればこの経路を支えられ、対となるドル資金の総回転量は3未満で、すべての約定価格はそれぞれの日次更新価格帯内に収まります。証明書は受け皿資産の終値を 1.4047874<y(40)<1.40555431.4047874<y(40)<1.4055543 に包み込み、有理数による指数関数の上下界を用いて、平均損失が厳密に0.020を超えることも検証します。

この固定された2日・10資産の問題で、同じ9資産が2日連続で下限引けし、かつ C0.9(40)≥0.020\mathcal C_{0.9}(40)\ge0.020 を満たすすべての実行可能経路を考えます。必要な資産別総約定株数速度の上限の下限を vˉ∗\bar v_* とします。二次の障壁は低すぎる速度を排除し、構成経路は実行可能な上界を与えます。両者を合わせると、

0.044<vˉ∗<0.285.0.044<\bar v_*<0.285.

この区間は、明確な次の課題を残します。すべての実行可能経路の中で、同じ目標に到達する最小取引速度はいくらなのか。現在の構成は実行可能集合が空でないことを示しますが、厳密な最適値を求めるには、日次更新価格帯、在庫、台帳の制約を伴う最適制御問題を解く必要があります。

9. 研究の貢献と次の課題

論文は市場の安定性を、個別に検証できる3つの層に分けます。応答の幾何構造は構造上どこへ到達できるかを決め、取引金額と在庫は資源が十分かを決め、速度と日次値幅制限は経路が実行可能かを決めます。応答座標 Φ\Phi はこの3層を結び、弾性の障壁を生むとともに、資源の下限を座標距離として表します。

この枠組みは、広範な下落を研究する際、下落幅だけでなく、受け皿側の容量、復元の時間尺度、価格下落後の1ドル当たりインパクトの変化も併せて調べるべきことを示唆します。対称な10資産構成は、完結した存在例を与えます。異質な資産、制限された取引ネットワーク、直接的な資産間インパクト、行動選択の仕組みは、モデルをさらに広げる方向です。

本記事の対象は、固定されたファンダメンタルズ、外生的なインパクト関数、共通の復元速度、リスク資産内で対となる再配分です。日次の比例価格帯はモデル上の制度設定です。具体的な市場へ適用するには、応答・復元パラメータを推定し、実際の約定、現金口座、取引所規則に対応させる必要があります。論文は現在ワーキングペーパーです。図表は解析曲線と構成経路を示し、数値曲線は浮動小数点計算による再現、厳密な実行可能性の結論は指定経路の独立した区間証明書に基づきます。

論文と再現用資料

本記事はV12 Finalの数学的基準版とSIFIN組版原稿に基づきます。モデルと座標は原稿第2節、弾性の障壁は第3節、A/B/Cと全カバレッジの境界は第4節、資源の下限は第5節、有限速度は第6節、複数日の構成と証明書は第7節および付録を参照してください。図表はArcaVisoの規格で再描画し、元のモデルと計算基準を維持しています。